脱水症状
『横浜介護求人センター』
第35回「脱水にならないように意識すること6選」
・脱水になると、どのような体の変化が起こるのか
脱水や熱中症で倒れる方のニュースはよくテレビで取り上げられていると思います。気をつけて水分を取らないと いけないとわかっていても、高齢になると喉の乾きを感じにくくなったり、「トイレが近くなる。焦ってトイレに 行きたくない。たくさん飲んだら漏らしてしまうんじゃないか」と不安になり、水分を控える方もいらっしゃると 思います。しかし、体内の水分が減少すると『イライラする、ウトウトする、ぼーっとする、落ち着かない』という 意識障害が起こることもあります。そして、さらに体内の水分量が減少すると、発熱したり、運動機能の低下に つながります。食欲不振になったり、疲労感やめまい頭痛が起こる。ひどくなれば幻覚が生じたり、意識を失う、 死亡する可能性もあります。
・1日にどれくらいの水分摂取が必要なのか
人間が1日に必要な水分量は体重1Kgにつき35ml〜40mlが必要だと言われています。例えば、体重が50kgの方の場合は、 1700ml〜2000ml摂取する必要があります。そのうちの半分ほどは食事(お米、味噌汁、野菜など)から摂取しています。 そのため、飲んで補給する水分は1日1000から1500mlと言われています。 (人それぞれ体重や食事量が違うため大体の目安になります)
・利用者さんの体型に合わせた水分摂取をしたことによって起こった変化
夕方になると荷物をまとめて玄関に歩いて行かれ「帰るから玄関を開けてほしい」と、不安を訴えられる方が いらっしゃったのですが、水分摂取がしっかりとできている日は、落ち着かれ帰宅願望が無くなりました。 その他にも、パッド内に失禁されていた方が、パッドが汚れる前にトイレにご自身で向かわれるように なりました。ウトウトと傾眠が目立つ方や、ずっと目を瞑っておられて方が、目をぱっちり開けておられたり、 食事の際に介助や声かけが必要だった方が、ご自身で召し上がれる時間が増えました。 排便での変化もあり、下剤を使用しておられる方の使用頻度や、使用量が減りました。 血液検査の結果にも少し変化があり、脱水状態で血液検査をすることで血液が濃くなっていることで、本来の値より それぞれ高い数値になることもあるそうです。つまり、本当はもっと低い数値だということです。血液検査の結果も 脱水状態で検査すると異常が確認できないこともあるんです。利用者さんの中にはアルブミンという値が 少し低下した方もいらっしゃいました。その方は、すぐに何か対応が必要というほど、値が低いわけでは ありませんでしたが、脱水によって血液検査の結果も変化するということには驚きました。 全てが水分摂取量を増やしたことだけが要因ではないと思いますが、このような変化が見られました。
「少しずつ摂取する」
水分摂取量が少なく、脱水になる可能性のある利用者さんがおられました。1日でどれだけ飲んでおられたかチェックをしたり、 スタッフも意識して声をかけたりしていたのですが、ご自身から水分を飲むことはされず、1日600ml飲めるか飲めないかぐらいの 摂取量で、声かけを行うと少し飲んでくださる方でした。小柄な方だったこともあり、1日1000mlを目標に少しづつ飲んでいただいて いました。あまりにもしつこく声をかけると、怒ってしまい全く飲んでくださらなくなるため、時間を空けて声かけをし、 毎日続けることで、少しずつ飲む量も増えていき、1000mi前後飲んでくださるようになりました。すると以前に比べて、発語も増えて、 目もぱっちりと開けてくださり、笑って冗談を言ってくださり、食事量も増えていました。水分量が少なかったことだけが理由だった 訳ではないと思いますが、脱水傾向にあったのも原因の1つだったんじゃないかなと思っています。 夏になると、脱水症状で入院される利用者さんが増えるんです。水分量を気にしていれば脱水になることはないと思うのですが、 喉の渇きを感じられなかったり、トイレにいく回数が増えるのが嫌だったりと、水分摂取量が少なくなる方は必ずおられると思います。 一気にたくさんの水分を飲んでしまうと身体に吸収しきれなかったり、排尿回数が増えてしまうので、飲みたくなくなるお年寄りの方は 多いんじゃないかなと思います。そして、高齢になると喉の渇きを感じにくくなるため、意識して水分を摂らないと、摂取量が少なく なってしまいます。そのため、目安としては1〜2時間おきにコップ1杯分を摂取するといいと思います。例えば、起床時、昼食前、 昼食時、おやつ時、夕食前、夕食時にコップ1杯(200ml)を摂取すると1200mlになり、お薬を服用されている方なら1500mlぐらいは 摂取できるのではないでしょうか。1回に200mlも飲めない方は、もっとこまめに分けて、少しずつ飲んでいただいてもいいと思います。 だからといってたくさん飲まないといけないからと、短時間に大量の水分を取ると、水中毒になる恐れもあるので、気をつけないと いけません。
「好きなもので摂取する」
お茶やコーヒーが苦手な利用者さんでしたが、ご家族とお話したり、ご本人さんに好きな飲み物を伺ったりしていくうちに 冷たいお水や牛乳がお好きなことがわかりました。そこからは、食事の際はお茶を提供して、食後に冷たいお水を提供したり、 朝食がパンの日には、紅茶やコーヒーではなく牛乳を提供するなど、お好きな飲み物を提供することにしました。その際、担当の お医者さんにも糖質や脂質などが他の飲み物より多くなってしまうので、確認して許可を取ったり、日常的に飲んでいることを 伝えることで、変化があった時には、気づいていただけやすくなったと思います。そして、主治医に伝えていることで、 ご家族さんにも安心していただけたと思います。水分摂取量が増えたからなのか、環境がご本人さんに会っていたのかは わかりませんが、うつ傾向にあり、薬を服用されていた利用者さんでしたが、今では抗うつ剤を飲むこともなく、穏やかに 生活を送っておられます。 水分摂取が苦手な方に、無理なく進んで水分摂取してただけるようにするためには、好きな飲み物を把握することが 大切なんじゃないかなと思います。いろいろな飲み物を揃えて置いておいてもいいだろうし、ご家族様に個人用で持って来て いただいても、いいんじゃないかなと思っています。昆布茶やミルクティーなどを置いておいたり、普段提供しているお茶の種類を 変えたり、増やしたりして飽きないように工夫するのもいいんじゃないかなと思います。 水分をとってほしいけど、喉が渇いていなかったり、飲みたい気分じゃないと促しにくいと思います。好きなものなら飲んで いただけるなら好きなものを提供する方法もあると思います。その時は主治医の先生と相談して、糖尿病がないか、どれぐらいなら 飲んでも良いのかを確認したり、ご家族さんの協力も得ながら脱水にならないように気をつけていきたいと思います。
「ゼリーで摂取する」
水分摂取が苦手だったり、水分でむせてしまうけど、固形物は飲み込むことはできる方がいらっしゃいました。そんな方たちの 水分摂取は、ゼリーでの提供をしています。トロミをつけた水分の提供もしますが、ゼリーの方が食べてくださる方でした。いろんな 飲み物を提供するだけでなく、利用者さん1人ひとりにあった水分摂取の方法を考えて、食感や、喉越しの違うものを提供することで 飽きることなく、利用者さんも進んで水分を摂取してくださいます。大きめの容器にゼリーを作って冷やしておけば、すぐに提供することもできて、便利だと思います。利用者さんからの人気もありゼリーを召し上がっている利用者さんをみて「美味しそうやねぇ。私も ちょうだい」とゼリーを希望される方もおられます。生クリームを乗せたり、トッピングをすることで、おやつの時や、食事のデザート としても提供することができます。水分補給だけでなく、豆乳寒天にすると、タンパク質も摂取することができます。 水分を飲むことが苦手な方はいらっしゃいますが、ゼリーなどの喉越しがよく、あっさりしたものなら召し上がってくださることが あります。ジュースとゼラチンとお湯で簡単に作ることができますので、ぜひ試してみてください。
「環境を変える」
食事の際に提供した水分を飲み切ることができずに、残されてしまう方がいらっしゃいました。食後にも少し飲んでくださって いましたが、全て飲み切ることができませんでした。そこで、一度、食後の口腔ケアにお連れし、戻ってきてから飲んでいただいたり、 食後にリビングでテレビを見ておられる際に「お茶入れましたよ」と提供したり、利用者さん同士でお話しされている時に提供したり、 居室に戻られてゆっくりされる際に、水分をお持ちして提供させていただいたりと、居場所が変わった時にお声かけして、提供する ことでまた飲んでくださるようになるんです。一度違うことをすることで、気持ちを切り替えることができるためなのか、水分を摂って くださる方が多いです。テレビを見ながらだったり、ご自身のお部屋で落ち着いてゆっくりできる空間だと、飲めるようで、声かけを しなくても環境や場所を変えるだけで水分を摂取してくださる方もいらっしゃいました。お一人おひとりにあった環境を見つけることで、 自然と水分摂取が進むのかもしれません。あとは、利用者さんと一緒にお話ししながら一緒に飲んだり、飲み始めるきっかけに なるように乾杯をして自分が先にお茶を飲んだりして、飲んでいただけるように促すこともしています。
「運動をした後に摂取する」
水分をあまり取られない方は結構いらっしゃいます。「トイレが近くなるから…」と断られる方もいらっしゃいます。 そんな方には、その方にあった活動を行っていただいたり、体操の後などにこまめに提供するようにしています。 コップにたくさん入れてしまうと「こんなに沢山飲めない」とおっしゃるので、50〜100mlぐらいをコップに入れて 体操の後、おしぼりを畳んでいただいた後、散歩や日向ぼっこの後など何かする前や後に少しずつ声をかけるようにしました。 すると、少しの量を何回にも分けて、しっかりと水分をとってくださるようになりました。 何か、飲むきっかけがあったり、次の動作へ移る前に飲んでいただくというのも効果的かもしれません。その取り組みは、 体操、洗濯物干し、散歩、おしぼりたたみ、調理、入浴など活動の前後で声かけを行うことです。活動の前より後の方が、水分を とってくださることが多いです。「体を動かした後なので、しっかり水分を摂っておいてくださいね」や「汗をかいたと思うので 喉が乾く前に、少しでもいいので何か飲みませんか?」などと声をかけると、自然と水分を摂ってくださると思います。
「利用者さんにお茶を淹れていただく」
お茶をお出ししても、なかなか進まない方は多いと思います。そんな時に、ご自身でお茶を入れていただいたら 美味しく感じるのではないか、自分が入れたお茶を「おいしいね」と他の利用者さんやスタッフに飲んでも らえることで、やりがいにもつながり、周りの人が飲んでくれるなら、自分も飲もうかなと思うんじゃないかという 話になり、しばらく試すことにしました。すると、急に飲んでくださるようになったということではありません でしたが、少しずつ飲む量が増えて、「私が淹れたお茶でおいしいと喜んでもらえて嬉しいわ」と恥ずかしそうに 喜んでおられました。利用者さんの役割りにもなり、とても良い取り組みになりました。 誰かに淹れてもらったお茶もおいしいと思いますが、自分で淹れたお茶はそれ以上に美味しいと思う方も いらっしゃいます。そして、誰かに飲んでもらって「おいしい」と言ってもらえれば、自分でも飲もうと思うようです。 誰かに淹れてもらったお茶もおいしいですが、自分や他の人のために入れたお茶も美味しく感じると思います。 それは、誰かのために何かをすることで、役に立ったと思えるからです。そして、上げ膳据え膳ではなく、 自分のことを、自分でできる喜びもあると思います。
最後に…
夏だけでなく、冬にも脱水になる方はおられます。水分を摂ることだけに気を付けるのでなく、エアコンの温度を調節したり、 扇風機などを使ったりして、室温の調節にも気をつけてください。夏場は特に、暑さを我慢せずに早めにエアコンを 入れるといいと思います。体温調整が難しい方は、厚着をしていないか、薄着になっていないかなど、衣類にも気をかける 必要があると思います。体調には気をつけて、少しでも体調がいつもと違うなと感じた時には、我慢せずに病院に受診することを お勧めします。 最初は、水分を飲む習慣がないと、慣れるまでは、なかなか目標の水分量を飲めないと思います。少しずつ意識するところから 始めて、目標の水分量を飲める日もあれば、飲めない日もありながら目標達成する日が増えたらいいんじゃないかなと思います。 寝る前にたくさん飲んでしまうと、失禁や、トイレの回数が増えてしまうかもしれないので、日中の水分量を増やすことを 意識した方がいいと思います。1度にたくさんの水分を飲んでも、トイレの回数が増えてしまったり、水中毒になる可能性も あるので気をつけて飲んでいただいてください。初めは、どんなものでも好きなものを飲んでいただければいいと思うのですが、 カフェインが入っている飲み物には利尿作用があるため、トイレが近くなってしまいます。カフェインの入っていないオススメの 飲み物は、麦茶、コーン茶、ルイボスティー、胡麻茶、黒豆茶などです。汗をたくさんかいたり、脱水の恐れのある方には、 スポーツドリンクや、昆布茶で塩分とミネラルの補給を行えるといいと思います。ただ、心疾患、腎疾患、高血圧、糖尿病などで 制限のある方もいらっしゃると思いますので、かかりつけのお医者さんに確認して水分摂取を行ってください。 脱水で入院したり、亡くなられる方がいなくなることを願っています。
「いざという時の経口補水液の作り方」
脱水の症状の方がいらっしゃるが、経口補水液がない場合は、水1ℓに砂糖40gと塩3gとレモン汁50mlを混ぜると出来上がるので いつでも作れるように、メモをしておいてくださると便利だと思います。 あくまで、緊急的な対応としてご活用ください。嘔吐や下痢による脱水の場合は、市販の経口補水液をご使用ください。 参考になれば嬉しいです。
(2024年7月1日)