第33回【介護施設でのおすすめの手作業5選】
「介護施設でのおすすめの手作業5選」
今回は、利用者さんと一緒に行える手作業を5つ紹介したいと思います。ここでは、利用者さんに、お願いすることを、 『お手伝い』や『レクリエーション』と書かずに『手作業』と書いています。『お手伝い』だと介護スタッフの手伝いをする 利用者さん。という関係性になってしまうため、一緒に生活をする上で助け合っていきたいという想いで避けています。 『レクリエーション』のように楽しみながら、取り組んでいただきたいとは思っていますが、利用者さんの役割に していきたいという想いがあり、レクリエーションという表現も避けています。 取り組むには、難易度の高いものもありますが、少しでも参考になれば良いなと思っています。
①おしぼりたたみやタオルたたみ
「何かすることないか?」「手伝えることあったらするから言ってね」とよく声をかけてくださる方がいらっしゃいました。 何かしていただけることで、役割になり、少しでも充実した生活にならないか。取り組みやすいことはないかとスタッフ同士で 話をして、タオルを畳んでいただくのはどうだろうかと言う話になりました。タオルたたみは、指先を動かす運動にもなり、 脳への刺激にもなるのではないか。と言う意見から取り組み始めました。初めはスタッフと一緒にたたんでいたのですが、 そのうち「あんた、他にすることあるやろ?やっとくよ」とお任せするようになり、ご自身の仕事のように「タオルたたもうか?」と 声をかけてくださるようになりました。 「何か手伝うことはない?」と利用者さんがおっしゃってくださる時はありませんか?きっと「忙しそうだし、何か私にできることは ないかな?」「誰かの役に立ちたい」「してもらってばっかりで、何もできなくなってしまった」「暇だし、何か仕事が欲しい」 他にもいろんな想いがあると思いますが、こういった気持ちから声をかけてくださっているのではないかなと思います。 スタッフも何かしてほしいとは思うけど、何をしてもらったら良いんだろうか。お願いしても良いのだろうか。 見守りが必要で、お願いしている時間がない。という思いもあると思います。そんな時、食事の際に使うおしぼりや、 洗濯物のタオルなどを利用者さんにたたんでいただきます。おしぼりや、タオルを畳んだりするのは、怪我をする危険もなく、 取り組みやすいです。こういった手作業から依頼すると、どなたでも取り組んでいきやすいです。たたんでいただく前には、 必ず、手指の消毒を行っていただきます。簡単な作業ですが、利用者さんにとっては指を動かす体操になります。そのため、 着替えのボタンをとめる動作などの細かい動作の維持・向上にもつながると思います。
②縫い物
僕は職場で履いていたズボンのポケットが破れたことがありました。破れてしまったため、ズボンを履き替えると「どうしたの?」 と聞いてくださる利用者さんがいらっしゃいました。ズボンのポケットに指を入れて「破れました」と伝えると、笑って、 「針と糸持っておいで」と仰ってくださいました。お渡しすると、すぐに縫ってくださり、すごく手際も良く綺麗に縫って くださいました。話を聞くと「洋裁だけど、昔してたの。息子もよくズボンを破いて帰ってきたから、できるのよ。懐かしいわ」 と笑っておられました。今でも大切にそのズボンを履かせていただいています。利用者さんの中には裁縫が得意な方は いらっしゃると思います。伸びたズボンのゴムを通していただいたり、破れた部分を縫っていただいたり、ボタン付けお願いしたり、 古くなったタオルを雑巾にしていただいたりしています。 縫い物が得意な方がいらっしゃれば、縫い物をしていただくと手作業になります。指先の細かい作業なので、集中力も必要になります。 身体の色んな機能を刺激するので縫い物が得意な方には行っていただきたいです。針を糸に通す作業は難しい方もいらっしゃるので、 事前に準備しておくか、その都度スタッフが行うと「私にはできない」とおっしゃることもなく、スムーズに行えると思います。
③食器の拭きあげ
食後の食器を洗った後の食器は、置いていても乾きますが、食後のゆっくりした時間が退屈に感じられたり、落ち着かなくなる方も 少なくありません。しかし、食後はスタッフも、利用者さんお一人おひとりとゆっくりお話することが難しい時間だと思います。 そんな時に食器の拭き上げ作業を利用者さんと一緒に行っていました。数人の利用者さんと一緒に行えて、ゆっくりと お話しもできると思います。人は一緒に何かをすると、仲良くなれるようで、普段あまりお話しない利用者さん同士でも、 一緒に作業をすることで、話すきっかけになったり、共通点ができたりと、良い関係を築くことができると思います。 食器の拭き上げ作業は、簡単でいろんな方にお願いすることができるんじゃないかなと思います。そして、お一人おひとりの 指の力や、細かい作業が得意かどうか、目が見にくくなっていないかも見えてきます。拭き方でなんとなく性格が見えたりもするので 色んな視点で一緒に行うと面白い作業だと思います。
④園芸
ある夏の日、施設の庭に雑草が生えていました。背も高く、量も多かったのですが利用さんが「この草なんとかしたいな」と 仰ってくださり、そこからみんなで草刈りをすることにしました。夏の終わり頃だったのですが、暑い日もあり、1日20分ぐらいで 少しずつ草むしりを行いました。1ヶ月ほどで綺麗になり、みんなで「意外と広かったんやなぁ」と笑っていました。 「さぁ、何を育てようか。せっかく綺麗になったんやから、何か育てたいな」と話しておられました。みんなで、色々考えても なかなか答えが出ず・・・。「じゃあ、何が食べたいですか?」と聞くと「いちご!さつまいも!ぜんざい!」と食べたいものは たくさんあるようで、すぐに意見が集まりました。あずきを育てた方がいらっしゃって、簡単にできるようだったのと、時期的にも ちょうどよかったので、小豆を育てることになりました。利用者さんと水やりをして、収穫をして、殻剥きも行いました。 利用者さんは「早く美味しいぜんざいが食べたいな」と同じ目標に向かって、楽しんで作業に参加してくださっていました。 収穫した小豆は、利用者さんと一緒にぜんざいを作って食べました。草むしりから始まり、小豆を育てて、ぜんざいを作るまで 利用者さんと一緒にできた経験はとても楽しかったし、イキイキした毎日を送ることができたと思います。 庭があって、園芸や畑ができる施設もあれば、ベランダにプランターをおくことのできる施設もあると思います。 プランターだと育てられる植物や野菜の種類は、選ぶ必要がありますが、育てることで楽しみや、やりがいができることが 大切だと思います。園芸を始めると、毎日の水やりが日課になります。そして、天気予報を気にして、室内に入れてあげようか考えたり、 元気がなければ、肥料をまくことも考えます。園芸クラブを作るなどして、季節によって植えたいものを調べたり、探したり、 時にはお店に行って、野菜の苗や植物の種を見に行くことで、育てたい野菜や植物を見つけることができたり、育てるイメージも 湧くので楽しいと思います。そして想像することや、色んなものを見ることで良い刺激になると思います。施設の中で、なかなか 季節を感じることは難しいです。しかし、外に出たり、野菜や、植物を育てることで季節を感じることもできるんじゃないかなと思います。自分達で育てた野菜は格別で、野菜が苦手な利用者さんも「美味しい」と召し上がられます。
⑤調理
利用者さんに包丁を持っていただくのは、危ないんじゃないかと思うかもしれませんが、長年、台所に立って 調理をしてきた利用者さんの包丁さばきはお見事です。手続き記憶があるため、身体で覚えた記憶はなかなか忘れることが ないからです。一緒に調理をしていても「あんたの包丁の使い方見てたら怖いわ。包丁、貸して」と綺麗に、手早く切って くださいます。僕の方が、包丁の使い方が危ないなと感じます。 調理を利用者さんと一緒に行うのは、難しいと感じるかもしれません。僕が、今まで利用者さんと調理をしてきて一番簡単なものは、 ホットケーキじゃないかなと思います。トッピングのフルーツをスタッフが切れば、材料を混ぜて焼くだけだからです。ダマに ならないように気をつけたり、ホットプレートを使うので火傷に注意しながら焼くことで、調理をしている実感がわきます。 調理の工程を考えたり、火傷に気を付けて、焼き加減を見たりすることで、脳を働かせることができます。そして、腕を動かし、 ひっくり返す時の失敗しないようにする緊張感やうまくできた時の達成感も良い刺激になるんじゃないかと思います。 うまく焼けた時の利用者さんの嬉しそうな表情は忘れられません。ホットケーキを作ることができれば、たこ焼きを作ることもできます。 その時には、食材を切っていただける時間を作れたら良いなと思います。たこ焼き作りは、着る食材も多くなく、工程も簡単なため、 行いやすいです。食事作りは、利用者さんとワイワイ作ることができるので、普段は食事量の少ない利用さんでも楽しみながら 食事ができて、普段よりも、たくさん召し上がられます。食事作りで気を付ける点は、衛生面です。きちんと消毒と、調理用の手袋の 着用が必要です。調理は、お願いするには難しいこともあるかもしれませんが、お皿に取り分けることからお願いしてみると 良いと思います。お願いしていないから、利用者さんの能力に気づけていないだけで、利用者さんはスタッフよりも、人生経験が長く、 好きなことや、得意なことを活かせる場面は多いんだと思います。 ⑥洗濯物 洗濯物を干したり、畳んだりする作業を利用者さんと行います。入浴後や更衣したの衣類の洗濯物を干していただいたり、 干した洗濯物を畳んでいただく作業です。利用者さんは施設に入所される前にはご自身で行われていた方もおられると思いますので、 多くの方に協力していただける手作業だと思います。洗濯物を干す際には、しっかりと生地を引っ張ってシワにならないように 丁寧に一つひとつ行ってくださいます。数人の利用者さんが行ってくださると「何してるの?」と他の利用ささんも一緒に 参加してくださることが多いです。手作業とはいいながらも、家事になるので「今まで散々してきたから嫌やわ」と断る 方もいらっしゃいます。断られると寂しいし、心が折れそうになることもあると思います。そんな時は、快く引き受けて くださる方を見つけて、1人2人と少しずつ手作業をしてくださる方を増やして、輪を広げていくことが大切だと思います。 晴れた日には、外やベランダで洗濯物を干すのも良いと思います。陽の光を浴びることで、体内時計をリセットできたり、 免疫機能を高めたり、ストレスの軽減や精神を安定させる効果などがあります。他にも日光を浴びると色々な良い効果があります。 日光を浴びる時間がとれるようにする取り組みとしても、洗濯物干しを行ってみることをお勧めします。 手作業は、身体を動かすことだけが目的ではありません。利用者さんが、施設に入るまでにやってこられた日常生活を、少しでも 続けていけるように、支えていけたら良いなと思っています。それは、家事でも、趣味でも、仕事だったことでも、その方の 得意や、好きを活かして、その手作業で、利用者さんが「誰かのためになっている。今日も自分は誰かの役に立った」と思えることで、 社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求が満たされるんじゃないかなと思います。 利用者さんにお願いするよりも、スタッフがする方が早くできたり、丁寧にできることもあると思います。(僕よりも丁寧に作業を される利用者さんはたくさんおられますが)それでも、利用者さんに行ってもらう理由は、利用者さんに「ありがとう」と言って もらえる日常よりも「ありがとうございます」と伝えられることの多い日常をつくっていけるように、関わっていきたいからです。 利用者さんが、普通に生活するために介護士は存在するんだと思います。利用者さんの中には認知症の方、身体に麻痺があったり、 動かしにくかったり、車椅子を使用しておられたりもします。今回のおすすめ手作業は、利用者さんの能力を知らないと ヒヤヒヤすると思います。しかし、普通の生活を送っていただくためには、普段から利用者さんの身体能力を見極める目も必要です。 スタッフが利用者さんの行動をどこまで見守れるか、どこで介助するのかの視点も大切だと思います。お一人おひとりの身体能力や、 得意や好きを発見できると、どんなことをお願いしようかワクワクできる毎日を過ごすことができると思います。
プロフィール
(2024年3月27日)